
先日、あるご提案に向けてチームでキャッチコピーを検討していた際、一人のメンバーがこんな話をしました。
「AIに300個のアイデア出しをしてもらったけれど、どれもどこかで見たような言葉ばかりだった」
しかし、そのどこかで見たような言葉を確認したからこそ、逆に人間側から、非常にキャッチーで響きの良い、満場一致のベスト案が生まれました。
今の時代、効率化のためにAIでキャッチコピーを作る制作会社も少なくありません。しかし、そんな今だからこそ、私たちは人間が考えるアイデアを大切にしています。
今回は、AIの特性をあえて逆手に取った、私たちスイッチならではのキャッチコピーの作り方をご紹介します。
それは、AIを正解を出してもらうツールとしてではなく、避けるべき表現を可視化するツールとして使う、ネガティブな活用法です。
この記事を書いたスタッフ
SUICH WEBデザイナー
KURIBAYASHI
2021年10月に2人目のWEBデザイナーとして入社。
前職は同様にHP制作会社で、デザイナーながらWEBならではの戦略やSEO対策などに意欲的で、のべ500件ほど、幅広いクライアント様を担当致しました。特に集客特化であるランディングページを得意としています。
AIは膨大なテキストデータを学習し、最も確率の高い言葉の組み合わせを出力します。つまり、多くの企業が使ってきた言葉や多くの人が良いと感じてきた表現を優先的に生成する仕組みになっています。
その結果として出てくるのが、たとえばこういったコピーです。
パッと見て悪い印象は受けないと思います。でも、どこかで見たことがある。そして何より、どの会社にも当てはまってしまう。IT企業でも、建設会社でも、飲食店でも、そのまま使えてしまう言葉は、言い換えれば「どの企業のものでもない言葉」です。ここで一つ、比べてみましょう。
同じ環境配慮型サービスを手がける企業があったとして、一方のキャッチコピーが先ほどの「あなたの未来を、ともに切り拓く」だとします。もう一方は、住友林業株式会社の「木と生きる幸福」。この二つを並べたとき、受け手の印象はまったく異なります。
前者は、ターゲットも思いもぼんやりとしていて、どんな企業なのか、何を提供しているのか、何も伝わりません。一方、後者には「木」というワードが含まれているため、木を扱う企業であることが瞬時に伝わります。さらに「幸福」という言葉が、単なる素材ビジネスではなく、環境に配慮した豊かな暮らしのイメージへと想像を広げてくれます。読んだ人の頭の中に、緑の風景や木の温もりが浮かぶ。これが、言葉に固有性を持たせるということです。
キャッチコピー 比較
あなたの未来を、ともに切り拓く
(環境配慮型サービス企業 / 想定)
この言葉から伝わること
木と生きる幸福
(住友林業株式会社)
この言葉から伝わること
POINT
平均値は一見悪くないように見えるからこそ、厄介です。「まあこれでいいか」とそのまま使われてしまいやすい。しかし、自社だけのものになれていないコピーは、どれだけ美しく磨いても、他社と混ざって消えていくだけです。
キャッチコピーの本質は、差別化です。どの企業にも使えるコピーは、言い換えれば「その企業の存在を消している」と言っても過言ではありません。
優れたキャッチコピーは、次の三つを同時に満たしています。
ひとつ目は、自社にしか使えないこと。
業種・規模・地域・文化・代表者の哲学など、そのすべてが言葉に滲み出ている。
ふたつ目は、ターゲットに刺さること。
「全員に伝わる言葉」は「誰にも刺さらない言葉」とほぼ同義です。届けたい相手の心に引っかかる尖りが必要です。
三つ目は、社内を動かす力があること。
キャッチコピーは、外向きのメッセージであると同時に、社員の行動指針でもあります。
コーポレートコピーであれ採用コピーであれ、この三条件を外したコピーは看板として機能しません。
では、自社にしか使えない言葉はどこから生まれるのか。それは、企業アイデンティティの構成要素を丁寧に掘り下げることから始まります。

企業アイデンティティの構成要素
企業アイデンティティは、大きく八つの要素で構成されています。想い(なぜこの事業を行うのか)、企業イメージ(社会からどう見られたいか)、課題(何を解決しようとしているか)、市場動向(どこから顧客が来るのか)、地域社会(いくらで・どのような形で提供するか)、提供価値(どこで・どのように届けるか)、独自の技術(いつ・どのタイミングで強みを発揮するか)、そして自社の強み(だれに向けて語りかけるのか)です。
これらの要素は、「なぜ?」「なにを?」「だれに?」「どこで?」「いつ?」「どのように?」「どこから?」「いくらで?」という問いと対応しています。キャッチコピーを考える際には、この問いを自社に向けて一つひとつ言語化することが、「その会社にしか使えない言葉」を見つける最短ルートです。
では、その最短ルートを辿るにはどうすればよいでしょうか。通常、AIをキャッチコピー制作に使う場合、良さそうなものを選ぶという使い方が一般的です。しかし私たちが提案するのは、まったく逆のアプローチです。

AIに大量に出力させ、
それらを「使わないワードリスト」として活用する。
具体的には、次のような指示をAIに与えます。
「中小企業向けのキャッチコピーを100個作ってください」
「建設業のコーポレートコピーを50個出してください」
「採用サイト向けのキャッチコピーをできるだけたくさん列挙してください」。
良いものを絞り込もうとせず、とにかく量を出させることが目的です。
出力されたリストを眺めると、あることに気づきます。
「人と社会をつなぐ」「未来をつくる技術」「信頼と実績で歩み続ける」「挑戦し続ける企業へ」
どこかで見たような言葉が、驚くほど高い密度で並んでいます。AIは学習データの平均値から言葉を生成するため、必然的に「どの企業にも使えてしまう言葉」を量産します。これは欠点ではなく、この手法においては最大の武器です。
「これは誰でも思いつく」「これはうちじゃなくてもいい」「これは競合他社も使っている」と判断しながらリストに×をつけていく作業が、意外にも自社らしさを言語化するための強力な鏡になります。×をつけるたびに、「では自分たちはどう違うのか」という問いが自然と浮かび上がってくるからです。
この考え方は、彫刻家が「余分な石を削って形を出す」感覚に近いかもしれません。キャッチコピーを「足す」のではなく、使えないものを「除く」ことで、残ったものが自社の輪郭を浮き彫りにしていきます。
AIへの指示は、あえて広く与えます。
「同業他社が使いそうなコピーを100個」
「採用サイトにありがちなフレーズを50個」など、
汎用性の高いものをわざと引き出す問いかけが有効です。自社の情報を詳しく伝えると独自性が出てしまうため、このステップでは意図的に情報を絞ります。
出力されたリストを読みながら、以下の基準で判断します。
該当するものはすべて使わないリストに入れます。消去に迷ったものも、迷った時点で候補から外すくらいの厳しさが必要です。
ここが最も重要なステップです。×をつけた理由を言葉にしてみてください。
「挑戦という言葉は、うちの文化と違う。うちは挑戦より、地道な反復を大切にしている」
「信頼は言えて当たり前。うちが本当に言いたいのは、信頼の先にある○○だ」
その「違う」という感覚の中に、自社固有の言葉の種が眠っています。
ネガティブリストと、ステップ3で出てきた断片的なキーワードをAIに渡します。
「これらの言葉は使わないでください。代わりに、こういった価値観を表現するコピーを考えてください」と指示することで、AIは制約の中で初めて自社らしい方向へ絞り込まれます。AIは制約を与えるほど、個性的な出力に近づきます。
POINT
この手法の本質は、AIを「正解を出すツール」として使うのではなく、「間違いを集めるツール」として使う点にあります。正解は自分たちの中にしかありません。AIが量産する平均的な言葉を鏡にすることで、はじめて自分たちの言葉の輪郭が見えてくる。採用しないために使うことが、キャッチコピー制作においてAIを賢く活用する方法です。
採用においては、この話は特に切実です。
「若手が活躍できる環境」
「チームワークを大切にする会社」
「風通しの良い職場です」
こういった言葉を並べた採用ページを、求職者はどう読むでしょうか。おそらく、ほとんど読んでいません。なぜなら、どの会社も同じことを書いているから。情報として処理される前に、流れていってしまうのです。
でも、問題はそれだけではありません。
何も特徴が伝わらない採用ページは、「この会社には特徴がない」という印象を与えます。それどころか、「何か隠しているのかもしれない」という不信感すら生んでしまうことがあります。誰もはっきり言いませんが、魅力を語れない会社は、語れない理由があると潜在的に思われてしまう。優秀な人材ほど、言葉の解像度に敏感です。うやむやな表現が並んでいると、応募の選択肢にすら入らないまま、静かに離脱していきます。
本来、採用というのは求職者が「ここで働きたい」と自分から選ぶ行為です。そのために企業側がすべきことは、自分たちの色をはっきり見せることです。全員に好かれようとした言葉は、誰にも刺さりません。尖っていることを恐れず、自社のカルチャーや哲学を正直に言葉にできる企業にこそ、それに共鳴した人材が集まってきます。
採用ページのキャッチコピーは、会社の文化そのものの見本市です。そこに並ぶ言葉が借り物であれば、集まる人も借り物のような関係になってしまいます。自分たちの言葉で語れる会社には、その言葉を信じてやってくる仲間が集まる。共に成長できる人材を引き寄せるために、言葉への投資は決して惜しむべきではないと、私たちは考えています。
まず大前提として、AIの使い方は人によってまったく異なります。
同じツールを使っていても、プロンプトの設計次第で出てくる答えは全然違います。
「前提」「条件」「視点」など、1つ違うだけで、
出力される質や方向性はまったくの別物になります。
だからこそ、AIを使いこなせていると考えている方もそうでない方も、他の人がどんなふうにAIを使っているか、どんなプロンプトを書いているかを積極的に見てみることをおすすめします。SNSやコミュニティで共有されているプロンプト集はもちろんですが、意外と同僚や仲間の使い方が参考になることも多いです。
そういった他者の視点に触れ、どう活用するかの引き出しを増やすことがAI活用を一段引き上げるヒントになります。
関連記事
そして、注意していただきたいのが、AIそのものを否定しているわけでは、まったくありません。
プロンプトを工夫することで、AIはときに鋭く尖ったアイデアを提案してくれることもあります。特定の業界・ターゲット・トーンを細かく指定すれば、平均値から外れた言葉を引き出すことも不可能ではありません。
ただ、今回ご紹介したやり方のポイントは「あえて平均値を出させる」ことにあります。
細かい指定をせず、シンプルに「○○業界のキャッチコピーを出して」と投げかけると、AIは迷いなく”最大公約数”的な言葉を返してきます。これが実は効率的で、「世の中に溢れているありきたりな言葉」を一気に可視化できる近道になるのです。
精度の高いプロンプトで尖りを引き出す方法と、あえてシンプルなプロンプトで平均値を炙り出す方法において、どちらが正解ということはなく、目的に応じて使い分けることが大切です。前者はアイデアの発散に、後者は「ありきたりで使ってはいけない言葉集」を作るのに向いています。
AIが出したから良いという受け身の姿勢ではなく、出力を批判的に読む視点も持つことで、使い方の幅が広くなります。
これは使わないと言い切る判断の積み重ねが、最終的にこれは自分たちにしか言えないという言葉を生み出す土台になります。
関連記事
少しAIの話から離れますが、これが私たちの一番伝えたいことです。
どれだけ時間をかけて磨いた言葉でも、届かなければ存在しないのと同じです。
キャッチコピーは「作ること」がゴールではありません。
誰かの心に触れて、初めてスタートラインに立てる。
私たちはそう信じています。
言葉は、思いの器です。どんなにデザインが美しくても、どんなに構成が整っていても、そこに宿る言葉が借り物であれば、見た人には伝わってしまいます。なんとなく良さそうだけど、よく分からない。そんな印象を残してしまう。それが一番もったいないことだと、私たちは考えています。
だからこそ、AIが出す平均値を反面教師にしながら、自社にしか言えない言葉を一緒に掘り起こしていく。このアプローチは、単なる制作テクニックではなく、私たちがすべての仕事に向き合うときの姿勢そのものです。
私たちスイッチはホームページ制作会社ですが、その根底に置いているのは、
常に「課題解決」という視点です。
ホームページはあくまで手段であって、目的ではありません。もしWebよりも効果的な選択肢があるなら、迷わずそちらを提案します。言葉も同じです。
きれいなコピーを作ることが目的ではなく、それが誰かに届いて、何かが動き出すことを目指しています。
コーポレートブランディングや採用において、言葉の力で一歩踏み出したいとお考えの方、ぜひ気軽にお声がけください。答えを持って来なくて大丈夫です。一緒に考えるところから、始めましょう。
まずはお気軽にご相談ください。Webサイトの新規制作はもちろん、「今のサイトをどう改善すればいいか」といったご相談も大歓迎です。